▼キャリアと能力の育て方2007/07/12 11:01 (C) 製造業で働く
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キャリアには、履歴書に書くような「経験した職業職務の履歴」と言う客観的側面と、仕事に対する「自己イメージ」と言う主観的側面がある。
「自己イメージ」とは、仕事に対して自分が持っている明快な認識や意識のことである。次の三つの問に答えを持っているなら、自己イメージが形成されていると言える。
・自分にできることは何か?(能力・才能)
・自分は何がやりたいか?(動機・欲求)
・自分は何をやることに価値を感じるか?(意味・価値)
このうち、「自分は何がやりたいか?」が一番の難問である。
キャリアにはサイクルがある。仕事を始めておおよそ10年で一人前になり、さらに20年で最高点、つまりすばらしい業績を生み出すレベルに達する。以降はゆるやかに能力は低下していく。これは熟達理論と呼ばれているもので、仕事を始めてから5〜8年くらいで、その仕事に対して適性があるかどうかを見極めることができる。
20年を節目とした「三毛作のキャリア」を提唱する。
・1stCrop 入社してから40歳前後 「若者としてのキャリア」
・2ndCrop 40歳前後から60歳前後 「リーダーとしてのキャリア」
・3rdCrop 60歳前後から80歳前後 「定年退職後のキャリア」
これは政府の日本21世紀ビジョンに示される「生涯二転職四学習」(就職前、引退後を含め計4回の学習機会がある)とも符合している。
3rdCrop「定年退職後のキャリア」は80歳前後まで働くということで、2030年には平均寿命を84歳まで、元気でアクティブに働ける健康寿命を80歳まで延ばすことをビジョンとして掲げている。(2002年は平均寿命81.8歳、健康寿命は75歳)即ち、キャリアは定年で終わらないと言うことである。
最初の20年は「筏下り(いかだくだり)」に例えられる。激流を下りながら、オールを使って難所を乗り切ってゆくイメージ、仕事に当てはめるとゴールを設定せず、当面の仕事に全力で取り組むことを意味する。この段階では、「計画された偶然性」と言うキャリア理論が有効で、「キャリアは偶然性に左右される」と言うことが基本にある。自分が本当にやりたいことや、どんな仕事に向いているかは、自分の意思だけでなく、実際の経験や人との出会いから分かってくるものである。「計画された偶然性」の理論では、
・オープンマインドであること(優柔不断の歓迎)
・意思決定(内省)よりも行動してみることを重視
・偶然の機会を作り出す行動
・偶然の機会を活かせるような学習 といったことが望ましい行動である。
次の20年の「山登り」は、自分の進む道(専門)を一つに絞り、その目指す頂に向け全てのエネルギーを集中させる段階である。一つの山に登るということは、他の山、他の選択肢を捨てることを意味する。「山登り」とはプロフェッショナルを目指すことであり、いつまでも山登りを始めず筏下りを続けると、いつかは海に出て漂流するだけになってしまう。
プロフェッショナルには三つのコースがある。
・ビジネスリーダー型…経営者としての知識やスキルを積んだ経営のプロ
・プロデューサー型…複数の分野に精通しており、変革や創造を起こすことの出来るプロ
・エキスパート型…特定の分野を深く掘り下げ、いわゆる職人的なスキルを持つプロ
スペシャリストとプロフェッショナルはよく混同して使われる。スペシャリストは特定の細分化された課業(例えば生産ラインの1工程)に熟達した人を指す。スペシャリストには、細分化されたルーティンワークを効率的に出来るようになればよく、1〜2年でなれる。正確には、専門化された課業を行う専任職(Routine Expert)である。
プロフェッショナルは、課業でなく個人の専門化である。10〜20年かけて能力を深化させていき、ようやく一人前になれる。プロフェッショナルこそが、文字通りの専門職(Adaptive Expert)と言える。
キャリアには「中年期問題」がある。人生の正午と呼ばれる40歳前後は、能力開発上の目標が失われがちになる。家庭・仕事両方の責任が重くなり、同時に体力の衰えを感じ始める。思考が内向きになり、ストレスや不安を抱えて成長の鈍化・停滞が見られる。プロになると言うことは、こうした中年期の成長を促進し、キャリアの可能性を広げること、会社外でも通用するほどの能力を備えて、会社とも健全な距離を保ちつつキャリアの寿命を長くすることである。
「筏下り」から「山登り」への移行には、三つのポイントがある。
・「損得勝負」から「真善美」への移行…勝ち負け、出世から、何が正しいか美しいかと言ったことが仕事をする上で大切な価値基準になる。
・「基礎力」から「専門力」への移行…基本となる能力を身につけることから、特定の分野のプロを目指す専門力を磨くことに注力する。
・「知の消費」から「知の生産」への移行…先人の解明した知を吸収(消費)することから、先人の知の上に、自分の解明した新たな知を積み上げる(生産する)ことが求められる。創造性は、先人の知に対して、「一行加筆する」、「一行訂正する」ことを意味し、まったくのゼロから新しいことを生み出すことではない。
キャリアを実現する上で必要な職業能力の基礎力としては、対人能力・対自己能力・対課題能力・処理力・思考力が挙げられる。
キャリアデザインの意義としては、キャリアのサイクルを経験する中で、人が自分の仕事(天職)に出会ったとき、人は「全ての経験は無駄ではなかった」と思える。また、「収入、出世、地位、学歴、資格など世の中の一般的な基準はたいしたものではなかった」と感じることができる。こうした境地に達することができるようになるために「キャリアデザイン」はある。
「筏下り」に「計画された偶然性」の理論が適用されることは分かったが、「山登り」の理論はどのようなものが適用されるのか?キャリア理論はまだまだ発展途上にあると思う。