▼八卦掌と獅子舞2020/03/05 12:41 (C) 獅子宿燻亭8
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長井の獅子舞の動きに古代中国で生まれた未知の武術が秘められているようだ。
最近よくyoutubeの古武道や古武術を検索して観ている。すると武術研究家「甲野善紀」氏の動画に惹き
つけられた。武術を通し、身体のちょっとした使い方や考え方で次第で、予想だにしない力を生み出すこと
ができるのだ。甲野氏はその理論を次々と実践して見せてくれる。特に「難波歩き」についてうなずける。
「難波歩き」は明治以前、江戸時代の日本人の歩き方である。現在、我々の用いている西洋的歩行法は手と
足が交互に動かす体側性で、明治以前の日本人は、手と足の動きが同じ同側性歩行法だったと言う。江戸時
代の飛脚や忍者が1日に200キロも走破する話はその歩き方だったから出来たという。武士は刀を腰に差して
いる事や女性は着物の為、現在の様に手を前後に振って歩くのには不向きだっただろう。
獅子舞の際に重い獅子頭を持ち、中に15人も人が入った重い獅子幕を引っ張っているのにも関わらず、上級
者の獅子振りは、後ろが追いつけないほどの速さで動き回る。総宮系の獅子舞の警護掛かりの寸前に、獅子
振りが三度歯打ちし「割る」と言う所作である。その際に獅子の口を開けながら歩むというやり方が同側性
歩行であり、その歩法だとスムーズに速度を上げることが出来るのだ。また甲野氏の動画に氏が命名し解説
した「互の目歩き」も獅子舞の歩き方と共通している。獅子頭を頭上に掲げながら上体は固定し、早く歩く
となると「互の目歩き」が効果的で見栄えが良く力強い。その他、様々と甲野氏の解説を獅子舞に投影する
と合致するので面白い。
更に甲野氏の武術の動画から、「八卦掌(はっけしょう)」という中国伝統武術に展開して行く。八卦掌は
拳(こぶし)より掌(手の平)を多用し、攻撃し戦う古代兵法である。
「円を描く歩法!八卦掌は超接近戦の武術だった!【宋麗】」
の動画をご覧戴きたい。(赤い文字をクイックしてもyoutube動画に移行しないので悪しからず。)
日本語堪能の宋麗師範が分かりやすく解説してくれる。遠心力を使って円を描きながらの歩法が、まさに総
宮系の獅子舞と通じるのだ。しかし蹴りや打突が、えげつなく激しく強烈だ。宋麗氏は女性だが相手役の若
い男性の弟子の攻撃を、いとも簡単に動きを封じ込め、反撃し止めを刺す。
宋麗師範の動画から時間の経つのを忘れ、次々と動画梯子をしていると衝撃的な八卦掌武術の動画に出会った。
「Kou-八卦掌・朱宝珍八卦掌初級演練套路 (趙鳳勇)」
「Kou-八卦掌・朱宝珍八卦掌高級演練套路 (趙鳳勇)」である。
コピーしてyoutubeにペーストし検索しご覧戴きたい。
この動きを緩やかにした演舞動画もあり、そうなると日本伝統の舞踊や盆踊りに見えてしまう。
八卦掌には「扣歩(こうほ)」と「擺歩(はいほ)」と言う方向転換の歩法がある。総宮系獅子舞の「見返
し」の際、獅子が警護が立つ前に進み、激しいUターンの動きを止める。その際の足捌きがハサミの様に足
を重ね、向きを90度変える一連の所作があり、八卦掌の扣歩と擺歩の動作と似ているのである。お御坂上り
の際の階段のUターンの足の付き方にも通じる。
日本舞踊の所作に首をひねる様な「見得(みえ)」の所作があるが、日本舞踊をしている従妹に聞くと歌舞伎
の見得から来ているのだと言う。見得は歌舞伎や日本舞踊の動きの流れにメリハリを加え、一瞬静止すること
によって見る者を注目させる効果がある。また市川團十郎の「睨み」は特別な意味のある所作で、睨みによっ
て厄を払うもので、市川團十郎だけの専売特許である。総宮系の獅子舞にも「見返し」と言う歌舞伎の見得と
同じ様な所作があり、これも市川團十郎の「睨み」的な厄払いの所作と重なるのではないかと考えられる。
獅子舞において眼力は重要な武器で、その為に飛び出した獅子頭の表情にしているのだろう。
総宮神社略誌に総宮神社の獅子舞創始の記録がある。
鎮守府将軍 源 頼義が康平六年(1063)戦勝祝いと社殿再造落成の九月十九日を例祭日とし・・中略
「軍士ヲシテ獅子ヲ舞ハシム 練兵ニ模ス 陣太鼓ヲ用ユ ・・」と言う一節がある。この時、中国武術を兵士達
が修練し、その型なるものを用いて如何に獅子舞を創造したかは、もはや知る由も無い。
さて、八卦掌と総宮系獅子舞の関わりについての研究は始まったばかりである。